紋について
男性の正装は『黒羽二重五つ紋付』です。紋は家紋を五つ(両袖、両胸、背中) 染め抜き日向で、一寸の大きさで入れます。略礼の時は、色紋付やお召しや紬の 無地を着ますが、紋は羽織に一ッ紋を染め抜きまたは縫い紋で入れたものを着ます。
女性が着物に紋をつける場合、おおむね家紋をつけます。この家紋ですが、 関東と関西では考え方に違いがあります。皆さんもご存知かもしれませんが、 関西では代々、娘は母の紋をつけます。ですから兄弟であっても、男子と女子では 紋が違います。また、夫婦でも紋は違います。一方関東では子どもは男女の区別無く 家紋をつけます。また、関西は女性の紋に『丸』を付ける事はまずありませんが、
関東では『丸』を入れる事が多いです。ただし、男性のときのような太い丸では無粋に なるので、『細輪』『糸輪』という細い丸にすると女性らしさが出ます。
ただ、この辺の事は地域によってずいぶん違うと思いますので、紋を入れられるときは 地元の方か信頼できる呉服屋さんによくお尋ねください。
なお、当店でもご相談を受けますので、お気軽にお尋ねください。
輪の種類
糸輪 | 細輪 | 輪(標準) |
雪輪 | 菊輪 | 藤輪 |
どうしてこう言う違いが出来たのか、はっきりとした事は分かりませんが、私風の 解釈は、関東の武家社会、関西は商家の影響が強かったからだと思います。 武家では、『家』と言う意識が非常に強く、嫁にきた女性も『○○家』の嫁と言う 意識が強かったのでは。一方、商家では、嫁は実家の影響力を後ろ盾にしながら、 それなりの財産と発言力を持っていたためと考えています。
ただし、これが本当かどうかはわかりませんのであしからず。
京都でお葬式のとき、親族の男性は多くの場合立礼にたち、女性は祭壇の前で 座って礼をします。このとき紋の違いにより嫁か娘かを見分けます。
ちなみに、我が家の家紋は『丸に三つ引き』、妻の紋は『揚羽蝶』、叔母たちの 紋は『笹りんどう』です。
丸に三ッ引 | 揚羽蝶 | 笹りんどう |
家紋についてもっと詳しくお知りになりたい方は下記の ホームページをご覧下さい。
家紋world
紋の数には、五つ、三つ、一つ、の三種類があります。数が多いほうが格が上に なります。既婚女性のもっとも格のある着物『黒留袖』は五つ紋を入れます。 次に『色留袖』の場合は、五つ紋を入れる場合と三つ紋にする場合があります。 留袖格で色留袖を着る場合は五つ紋、少し格を下げて着易くする場合は三つ紋 にされても良いと思います。訪問着や付下の場合は一つ紋、色無地も一つ紋に します。無地のコートに一つ紋を入れるととっても素敵です。特に黒地のコートに 一つ紋などは留袖の上やコンサートへ出かけるときでもおしゃれで素敵です。
紋を入れる場合方法としては、『染め抜き描き紋』(『染め抜き紋』または 『抜き紋』とも言う) と刺繍で入れる『縫い紋』とが あります。染め抜きのほうが正式ですが、訪問着や付下などの場合は『縫い紋』 特に加賀紋といわれる何色かの色糸を使った縫い紋がおしゃれです。
[描き紋]
『染め抜き描き紋』を入れる方法は大きく分けて二通りあります。例えば色無地 を例にとりますと。白生地を選び、色を選んで別染め(誂え)で 作る場合、最初に糊で紋の形に防染します(紋糊)。 その後色を染めたあと、その紋糊を取る(紋糊落)と紋の輪郭が 白いまま残ります。そのあと上絵で輪郭線やシベを入れて出来上がります。一方 色に染まった着物に紋を入れる場合、紋の形に切り抜いた紋紙で、 紋の輪郭を 色抜きします。そしてそのあと上絵で同じように輪郭線やシベを入れま す。ただ、 この場合地色によっては、真っ白に色が抜けない事もあります。特に黒はまず抜く 事は出来ません(絶対ではありませんが)。だから喪服などの場合は 石持ちといって 最初は紋のところを丸く(白に)しておいて後から紋を入れます。ただ年数が経つと、 紋の輪郭と最初の丸との間の部分が変色してくる場合もあります。もちろん 直す事は出来ますが。出来れば誂えでお作りになれば、そういったことは起こりません。
また、描き紋の一種で『色刷込紋』と言うのもあります。陰の紋の地色のところに 色を付けた紋です。主に女の子のお宮参りの祝い着や男性が白麻の紋付に 使いますが、白地や薄色の着物に使うときれいだと思います。
[縫い紋]
縫い紋を入れる場合もいくつかの選択肢があります。まず一色で入れるのか、 多色(加賀紋)で入れるか。縫い方もいくつかの選択肢があります。『スガ縫』 『相良縫』『駒縫』などがあり、一つないし複数の縫い方を使います。 当店の 縫い紋をお願いしています『吉田刺繍』(職人さいらっしゃをご覧下さい)の ご主人は『五分五厘の中で勝負しなけ ればならいので大変です』と言われます。
刷り込み紋 |
縫い紋/加賀『揚羽蝶』 吉田刺繍製 |
縫い紋/加賀『光琳揚羽蝶』 吉田刺繍製 |
(『描き紋』は下の方をご覧ください)
紋の大きさは時代により変わってきていますが、現在の標準は男性が一寸 (直径約3.3cm)、女性が五分五厘(直径約1.8cm)です。ただ、訪問着や付下 などに入れられる場合、特に縫い紋の場合もう少し大きくして、六分から八分ぐらいに されても良いです。
紋帖を見ると無限のように感じるほど、いろいろな紋が書いてあります。目次だけでも 220あまりが載っています。中には『本当にこれを紋にしたの』と思うものもありますが、 日本人のデザイン性に感心します。
紋のバリエーションにはいくつかの法則性があります。最近ではその違いが無視され がちですが、もう一度見直してみても良いのでは思います。
一般的な紋(留袖や喪服につける紋)は総称して『日向(ひなた)』 あるいは『日向紋』と言います。 白くくっきりとした中に墨で模様を描きます、例えば『(日向の)五三桐』。これに丸をつけ ると『丸に五三桐』となります。
一方、本来墨の線で表すところを白く抜き、日向で白い 所に色や黒くなった紋を『陰』(『(総)陰五三桐』)と言います。
陰の紋の輪郭線を太くして、中の細い線を省略した紋を『中陰』 (『中陰五三桐』)と言います。 以前は色無地の場合はほとんど『中陰』を入れました。日向紋より少し 略式と言う感じで、やわらかい感じがします。
これら以外に、『覗き』『鬼』『浮線(フセン)』『光琳』『割』『枝丸』『踊り』などのバリエーションがあります。
最近は紋をおしゃれに着こなしていらっしゃる方も増えてきました。紋帖を見ながら、 いろいろと工夫されてみてはいかがですか。
着物の種類 | 紋の数 | 入れ方 | その他 |
留袖・喪服 | 五つ紋 | 染め抜き | 日向 |
色留袖 | 三つ紋・五つ紋 | 染め抜き | 日向 |
訪問着・付下 | 一つ紋 | 縫い紋・染め抜き | 日向・中陰・その他 |
色無地 | 一つ紋(三つ紋) | 染め抜き・縫い紋 | 日向・中陰・その他 |
小紋・着尺 | 一つ紋 | 縫い紋・染め抜き | 日向・中陰・その他 |
黒無地羽織 | 一つ紋 | 染め抜き | 中陰 |
黒絵羽羽織 | 一つ紋 | 染め抜き・縫い紋 | 中陰 |
ない場合もあります。入れられるときは専門店でご相談ください。
紋のバリエーション (五三桐の場合)
日向五三桐 | (総〉陰五三桐 | 中陰五三桐 |
覗き五三桐 | 鬼五三桐 | 浮線桐 |
光琳五三桐 | 三ッ割桐 | 桐の枝丸 |
踊桐 | 桐菱 | 細中陰飛桐蝶 |
(資料は平安紋監より)